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想像の、旅に出よう






オレニアックス生物学

オレニアックス生物学は、FT新聞の記事のひとつで、
FT書房のファンタジー世界『アランツァ』に登場するモンスターを、
仲間たちと一緒に勉強するコーナーです。


作家3人が順番に執筆していますが、授業の内容は多種多様。
どれも味があって、読み応えがあります。


杉本=ヨハネ:大食らい虫

清水龍之介:ウルフドッグ

ロア=スペイダー:マンドラゴン




 

大食らい虫

From:杉本=ヨハネ


生物学の授業は非常に重要な科目だった。
アランツァの地での戦いは、戦争となるとまた話は別だが、人間以外の生き物と交戦することも少なくなかった。
聖オレニアックス剣術学校のカメル・グラントは生物学の権威。
そんな彼の授業は生き物の外見、性質、そして対処方法を教えてくれる。
生徒たちを生き残る道へと導く、確かな灯火だ。


今日もカメルの授業が始まる……。



ラクダ人であるグラント博士は、年がら年中もっしゃもっしゃと口を動かし、授業する。
草食動物の性質を色濃く残したラクダ人は、繊維質の食物を大量に食べ、1日中消化にいそしむ必要があるのだ。
生徒から抗議が来ることもあったが、大抵の生徒は慣れてしまう。
今日の授業は「大食らい虫」についてだ。


「大食らい虫は原初の生物に近い存在だ」


グラント博士はおもむろにそう言った。


「今も原初の面影を残すゴーブの地や、あるいは地下迷宮の下の下のほう奥深くに生息する。
  目がなく、耳がなく、手足がない。ただ、ものを食べるための口と、ごく小さな鼻孔が存在する。
  外見は蛇のようだが、もっとずっと大きく、幅も広い。その体は柔軟で、地下迷宮の床、天井、そして壁に合わせて目いっぱいに広がる。
  大食らい虫は実際、通路いっぱいに広がって、すべてのものを飲み込みながら進む。
  地下迷宮で出会ったとき、大きな口が迫ってくるようにしか見えないだろう。
  ヘイルくん、君ならどうするかね?」


 名指しされてゴーレム剣士のヘイルは腕組みする。


「うーん。そいつって、俺みたいな木人でも消化するんですかね?」


 博士はこくりとうなずく。


「わずかな鉱物を除き、どんなものでも溶かしてしまうよ」


 ヘイルは困ったような顔をした。


「そんなにでかいと、倒せなさそうですよね。じゃあ、食べられちまうしかないのかな」


 グラント博士は両手を叩いてヘイルを褒め称える。


「そのとおり、正解だよヘイル君。大食らい虫の弱点は身体の外側にはない。大きいだけじゃなく、急所と呼ばれる部分が存在しないのだ。だから、身体の内側に入って傷つけるしかない。大食らい虫が身体を目いっぱい伸ばして迷宮内を動きまわる間、その内側ではかなり自由に動けるのだ。じゃあ、マグス君。以上のことから、大食らい対策に必要なものは何かね?」


 マグスは黙りこくって爪をかみながら、しばらく考える。


「火ですかね? あるいは、先の鋭い刃物。理容師が使うような……。」


 グラント博士は口をもっしゃもっしゃと動かしはじめていたが、ゴクンと飲み込んで返事をする。


「刃物は正解だ。異物を呑み込んだと感じたら、大食らい虫は君を吐き捨てることだろう。もっと大きくて長い刃物であれば、腹を裂いて出ることだってできる。だが、火はまずい。彼らの体内にはガスが溜まっていることもある。そうなったら」


 大きく息を吸い込んだ博士に対し、ニナほか何人かの生徒はすばやく耳を塞ぐ。


「ドカーン!」


 とんでもない大声で、博士は叫んだ。


「と、爆発してしまうだろう。大食らい虫のゴム状の身体は、こういった爆発には強い。一方、腹の中の君はむだ死にしてしまうだろうな」


 授業の終わりを告げる鐘が鳴る。


「最後にひとつ、アドバイスだ。大食らい虫を見つけたら、できるだけ逃げること。彼らのほうが人間よりも素早いが、さいわいなことに彼らは生き物に興味があるわけではない。気の向くままに動き回っているだけだから、その動きはランダムだ。つまり、『できるだけたくさんの曲がり角を曲がって逃げる』こと。T字路を抜けるたびに半分の確率で助かるし、十字路を抜けるたびに3分の2の確率で違う通路に向かってくれる。これが、大食らい虫から助かる公算の高い逃げ方だ。それでダメだったら、がんばって腹をつついてみること。以上!」


 博士はピンと背すじを伸ばしたまま、教室の扉を開ける。ありがとうございました! と声が響く。


 若い生徒たちに教えることのうち、どれが役立ち、どれが無駄になるかは分からない。
  だが、いくつかはきっと、彼らの命を永らえさせてくれるだろう。
  そう信じて博士は今日も教鞭をとる。



大食らい虫
【混沌の迷宮】に登場。259ページを参照。
技術点不明 体力点不明




 

ウルフドッグ

From:清水龍之介


狼犬ウルフドッグ。
狼の戦闘力に犬の忠誠心を持つ、ハイブリッドの危険な番犬。


アランツァのウルフドッグは、どうやらそれだけではないようです。


あなたが冒険者として力をつけてきたなら、よく調教されたウルフドッグは落とし穴。
本日の授業は聞き逃せません、、、





生物学の授業は非常に重要な科目だった。
アランツァの地での戦いは、戦争となるとまた話は別だが、人間以外の生き物と交戦することも少なくなかった。


聖オレニアックス剣術学校のカメル・グラントは生物学の権威。
そんな彼の授業は生き物の外見、性質、そして対処方法を教えてくれる。
生徒たちを生き残る道へと導く、確かな灯火だ。


今日もカメルの授業が始まる……。





「さっそく聞くが、このなかにウルフドッグと戦ったことのあるものはおるかね?」


 開口一番、グラント博士は英雄候補たちにこう問うた。
さすが、というべきか、ちらほらと手が挙がる。


「これは驚いた。アヴィオン、ニナ、そしてガリィか」


 前の方に座っていたガリィが驚いて振り返る。君の隣に座るヘイルが目をそらし、君の脇を肘でつついた。ヘイルと二人で含み笑いをする。


「では、ガリィ」


「うわ」


 当てられたガリィがなぜか参ったという声を上げる。彼の様子に、クスクスと笑い声が上がる。


「なにがうわかね。君はどうやってウルフドッグを撃退したのかな? その時の様子を聞かせて欲しいのだが」


「あ、えっと……いや、大したことないんで、俺はいいです」


「こらこら。この授業は君のためだけじゃない。君の経験が、クラスメイトを救うことにもなるんだぞ」


「うーっ……」


 悩むガリィを見て、君とヘイルはこらえきれなくなってプッと吹き出す。


「あーくそ、どうにでもなれ!」


 ガリィは観念したように話し始めた。


「礼拝堂の隣の宿舎に入ろうとしたら、噛み付かれたんです」


「ほう、興味深いな」


 グラント博士は目を見開いた。


「ウルフドッグは番犬として居たわけだな。どうして宿舎の番犬に噛み付かれたんだね」


「それは……」


「入ろうとした、というより、忍び込もうとしたというわけかね」


「あ、はい」


「日が沈んでから?」


「あ、はい」


「なぜ」


「あ……それは、その……シ、シスターに会いに行ったというか……」


「ほう。シスターに忍んで会いに行って、番犬のウルフドッグに噛み付かれて、それで?」


「で、ゴロゴロ転げまわったら服が破れて自由になったんで、そのまま逃げました」


「ふうむ」


 グラント博士は眉を寄せてため息をついた。


「それは、ウルフドッグを撃退したとは言わんな。君がウルフドッグに撃退されたのだ」


 ドッ、と教室が沸く。
ガリィは顔を真っ赤にして言い訳する。


「いや、でも、俺だけじゃないんですよ!」


「言い訳は男らしくないぞ、ガリィ!」


 ヘイルがそれを打ち消すように叫ぶ。また教室が沸いて、グラント博士は彼らを鎮めなければならなかった。


「分かった分かった。その話は、職員室でじっくり聞こうじゃないか」


「うへえ」


 ガリィは情けない声をあげた。


「手ぇ上げるんじゃなかった……」


 また教室からゲラゲラと笑い声が上がった。その笑い声の大半は、ガリィと一緒に忍び込んだ、君とヘイルのものであったが……。





「では、気を取り直して質問しよう。アヴィオン、ウルフドッグに出会ったら、どのように対処するのが正しいか?」


 グラント博士は狩人のアヴィオンを指名する。
アヴィオンはいつもの静かな口調で、すぐに答えた。


「その前に一つ質問させて下さい」


「うむ」


「出会った場所は、森ですか? 洞窟ですか?」


「ううむ」


 グラント博士は反すうしていた口をピタリと止め、ニッコリと笑った。


「的を射た質問だな。優れた質問は優れた答えよりも尊い。アヴィオン、では、狩人の君から、森で出会った時、洞窟で出会った時、それぞれの対応について教えてくれないか」


「はい」


 彼は静かに微笑みながら、控えめに話し始めた。


「洞窟で出会ったなら、部屋を塞ぐように守っている事が多いはずです。引き返しても、追ってくることはないでしょう。十分な準備をしてから戦うべきだと思います」


「例えば?」


 グラント博士の問いに、アヴィオンはすぐに答える。


「例えば、狼犬の鋭い嗅覚を逆手に取るために、刺激臭のする物を用意します。部屋の中にぶちまければ、ウルフドッグの強さを半減できるでしょう」


「なるほど。では、森で出会ったら?」


「森でウルフドッグに出会ったら――」


 アヴィオンは首を振った。


「どうか天国にいけるよう、自分の信じる神に祈れ。……そう言われています」





 穏健派のアヴィオンのこぼした意外な言葉に教室はざわつく。


「こらこら、静粛に。アヴィオン、それは一体どういう意味か、皆に説明してくれないかね?」


 グラント博士はしばらく反すうをしていたが、この件は完全にアヴィオンに任せてしまったようで、彼に続きを促した。


「はい。森で出会った狼犬は非常に危険な存在です。灰色熊と出会うか、ウルフドッグと出会うかと問われたら、僕なら灰色熊と戦うことを選ぶでしょう。まだ、逃げきれるかも知れませんから」


 アヴィオンは話し始める。


「彼らは、誤解されやすい種族です。狼よりも少し弱いくらいだろう、と高をくくる冒険者もいます。それは間違いです。銀色に輝く彼らと実際に向い合ってみればそれが分かります。全身の毛が逆立ちますよ。猛獣です。犬よりも、狼よりもずっと大きいのです。イノシシと同じ体重を持ち、全身は筋肉の塊です。頭は分厚い頭蓋骨と頸椎(けいつい:首の骨)に守られています。当たりそこねた刃など、ものともしません。鋭い牙を持ち、一度噛みついたら肉を引きちぎるまで離れません。脚力が強く、枝の上に隠れるヒョウなどにも飛びつく跳躍を見せます。森を駆ける姿は銀の風のようです。森の動物は誰も逃げられません。嗅覚も犬のように鋭いのです」


 アヴィオンはとつとつと話すが、顔は少し紅潮しているようだった。
グラント博士はうなづいて、彼に質問した。


「逃げるのではなく戦うのなら、どうなるかな?」


 アヴィオンは問い返す。


「森で戦うんですよね」


「戦うことはできないかね?」


「いいえ、どうしてもというならやります。森は彼ら獣の領域ですが――」


 アヴィオンはキッパリと言った。


「僕の領域でもありますから」





「森の中なら、罠を仕掛けます」


 アヴィオンは森に潜む一本の木のような佇まいだったが、狩人としての知識を披露する時には、そこにキラリと刃が輝いたようだった。


「効果的な罠はスネアとかトラバサミなど、動きを止めるものがいいでしょう。彼らの知能が高いとは言っても、しょせん獣ですから、人間の知恵にはかないません。いや、人間は、知恵でしか勝てない、というべきかな」


 アヴィオンは慎重に言葉を選んでいるようだった。


「肉弾戦なら、分厚い金属鎧を装備しなければならないでしょう。ヘイルのような特別な身体であれば別ですが、我々の首には大事な血の管があります。ウルフドッグはそれを知っており、首を噛み付いてくることが多いのです」


 アヴィオンの答えに、グラント博士は更に質問する。


「遠距離戦なら?」


「弓矢がいいと思います。狙うのは心臓です。ですが……」


「どうした?」


「ウルフドッグに気づかれずに矢を射ることができるなら、引き返して別の道を行くべきだと思います」


「なるほど」


 グラント博士は彼の言葉に大きく頷いた。


「アヴィオンは大事なことを教えてくれたな。不要な戦闘をけしかけることは、勇気ではない。軽はずみなだけだ、と」





 授業も終わりに近くなり、グラント博士は真面目な口調で話し始める。


「魔法による掛け合わせで生まれたウルフドッグは、魔法を使わねば調教が難しく、本物の狩人でなければ飼いならすことができない。ただ、一度飼い馴らせば、血よりも濃い絆で結ばれるという。以上のことから分かることは何か? さすがに優秀だな。よく手が挙がるクラスだ。では、マグス」


 錬金術師のマグスは、コクリと頷いた。


「ウルフドッグは人間にしか扱えない、ということです。彼らは錬金術の生み出した生物兵器だからです。だから、錬金術を理解する知能を持った限られた種族、つまり、人間にしか扱えません」


 その言葉を引き継いで、グラント博士はニナに水を向ける。


「過激だな、マグス。エルフはウルフドッグを使うことはないのかね? ニナ」


「使いません。恐らく人間だけでしょう」


 エルフのニナは、微笑んで首を振る。


(「そんな不自然な掛けあわせ、自然を愛する森の民なら許しません」とでも答えられたら盛り上がるんでしょうけど、ネグラレーナの商売ではそういうのも取り扱ってたからね……)


 ニナは笑顔の裏で、密かに舌を出した。彼女の複雑な胸中を察するものは、ほとんどいないだろう。


 グラント博士は続ける。


「ウルフドッグから逃げ切ることは至難の業だ。推定最高速は時速100キロで、全力で30分だって駆けつづけることができる。速度を半分に落とせば、一晩中だって走れるという。やはりウルフドッグは、森で一番出会いたくない獣のうちの一つだといえるだろう。どうしても戦わなければならないなら、地形を利用した罠を仕掛けたり、網で捉えることや布を噛ませることで、動きを止めることを考えること」


 終業の鐘がなる。


「もっとも、アヴィオンの教えてくれたとおり、ウルフドッグを扱うものと敵対せぬに越したことはない。もしそうなってしまったら、ウルフドッグは犬とも狼とも違う、一種の猛獣だと心得て、正面からでなく、知恵を絞って戦うこと。以上!」


 博士はピンと背すじを伸ばしたまま、教室の扉を開ける。ありがとうございました! と声が響く。


 若い生徒たちに教えることのうち、どれが役立ち、どれが無駄になるかは分からない。
だが、いくつかはきっと、彼らの命を永らえさせてくれるだろう。
そう信じて博士は今日も教鞭をとる。


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ウルフドッグ


  部屋に入ると大きくて凶暴そうな犬が吠え掛かってきた。狼犬ウルフドッグだ! 部屋の奥には綺麗な道が見える。戦わずに逃げるなら一度だけ噛み付かれるものの、それ以上は追ってこない。体力ポイントを2へらして明るい道へ逃げる(Aへ進む)。
戦うならあなたはウルフドッグは嗅覚が非常に強いことを思い出す。香水かスライムのしずくを持っているか? 持っていて使用するなら、ウルフドッグの技量ポイントを2へらして戦うことができる。使ったものをアドベンチャーシートから消しておくこと。


【断頭台の迷宮】に登場。
技術点8 体力点8
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P.S.
今回の授業は、粟国仁志さんからのリクエストを元に作成いたしました。
粟国さん、リクエストありがとうございます!


P.P.S.
引き続き、龍之介のオレニアックス生物学の記事はモンスターのリクエストを募集します。
取り上げて欲しいモンスターがいたら、
ぜひアンケートなどで教えてくださいね。
ほんとうに助かります。

http://www.surveymonkey.com/s/FVRBGBG



 

マンドラゴン

From:ロア=スペイダー



生物学の授業は非常に重要な科目だった。
アランツァの地での戦いは、戦争となるとまた話は別だが、人間以外の生き物と交戦することも少なくなかった。
聖オレニアックス剣術学校のカメル・グラントは生物学の権威。
そんな彼の授業は生き物の外見、性質、そして対処方法を教えてくれる。
生徒たちを生き残る道へと導く、確かな灯火だ。
今日もカメルの授業が始まる……。



授業が始まる前に黒板大きな羊皮紙を貼り付ける。その羊皮紙にはあるモンスターが描かれていた。
そこには背中に木を生やした大きなトカゲに抱きつく裸の女性が描かれていた。
裸の女性はスタイル抜群で、頭についてる禍々しい花飾りが妖艶という言葉をイメージさせる。
それを見た瞬間、講義室に主に男性の歓喜とざわめきの声が響く。


「あー。静粛に。別に研究資料として隠していたご禁制の絵を披露しているわけではない。これは今日の講義の題材なのだ。この絵は『マンドラゴン』という生物を描いた物。さて!生徒諸君!これのどっちがマンドラゴンかわかるかな?」


その言葉に生徒たちは互いを見たりざわめく。どっちというのはどういうことだろう?
『マンドラゴン』という名前からしてドラゴン、もしくはドラゴンに似た生物なはずだ。
となれば裸の女性ではなく大きなトカゲの方が正解なはずだ。実際ほとんどの生徒がトカゲの方が正解に手を上げた。
だが、2人の生徒は違った。


「ほう。アヴィオンとニナは違うようだ。君たちが女性の方だというその根拠は?」


カメルの問いかけにニナは立ち上がって答える。


「私は、マンドラゴラという植物の亜種だと予想しました。人の姿をして引っこ抜く際の声で害をなすという……。想像ですが、マンドラゴンというのはドラゴンに寄生し背中から生えてくるマンドラゴラなのではないでしょうか?」


二ナの答えにカメルはうなずく。そしてアヴィオンの方に視線を向けた。


「え……えっと。僕は匂いなどでオスの生物を操る森の妖精的な感じの生き物ではないかと……。『森で裸の女性を見たら逃げろ。正体がなんであれ酷い目にあう』という言い伝えも聞いてますし……」


自信の無そうな答えを聞いて、無言でうなずき再び、全体を見回す。


「それでは、皆に正解を教えよう。正解は……どちらも間違いだ。『マンドラゴン』というのはこの絵の通り。このドラゴンと女性が合わさった生物がそうなのだ」


その回答に何人かの生徒は崩れ、または抗議の視線を浴びせる。


「ははは。これは教訓だよ。問いかけはいつも親切とは限らない。最初から相手をだまそうとしているときだってある。さて……講義を続けようか。このマンドラゴン。とても珍しい共生生物なのだ」


そういって黒板に貼り付けてある絵を教鞭で叩く。


「共生? 混合生物ではないんですか? キマイラみたいな……」


レムレスの問いにカメルは嬉しそうに返答した。


「ああ。ちがう。キマイラは違う生物が魔術的にかけ合わさって生まれるが、マンドラゴンは特殊なマンドラゴラとツリードラゴンという種が百竜の森という特殊な環境で手を取り合って生まれた生物なのだ」


そういって、講義室にある地図を教鞭で指す。その先には白い大きな繭が描かれていた。


「百竜の森とはな、カオスドラゴンという生物が生み出した繭の中にある。この繭は年に一度。しかも一日しか開かない。そのとき以外は外界とは接触が無い隔離された場所なのだ。その特殊な環境が生み出した生物の一つがマンドラゴンだ」


今度は教鞭をトカゲの方に指す。


「マンドラゴンのドラゴン部分は普段は地面に埋まっている。つまり!見た目は大きな木に裸の女性が抱きついている!さあ、レムレス。君ならその光景を見たらどうする?」


「え?!あ!たぶん駆け寄るかと。近くで確認するために……は!」


レムレスはとっさに答えた後、自らの間違いに気付いた。
女生徒の視線が厳しい。決してそういうつもりで言ったわけではない!


「ははは。その答えは男性としては正しいな。だが、それはマンドラゴンの思う壺だ。女性に気を取られて近づいたところに地面の中からドラゴンが襲い掛かる。待ち伏せタイプの狩猟を行う生物なのだ」


続いて、女性の部分に教鞭を指す。


「さらに恐ろしいことに、ドラゴンの攻撃で獲物がしとめ切れなかった場合、この女性の部分が大きな金切り声を上げて、獲物の鼓膜にダメージを与え弱らせる。獲物はそれで気絶し、その後ゆっくりドラゴンに食べられるというわけだ。良くできているだろう?」


そこまで言ってカメルは生徒達を見渡す。


「このマンドラゴン、女性部分の大きさは我々と同じくらいなのだが、百竜の森にいる亜種の『マンドラゴラ』と『ツリードラゴン』はもっと小さい。マンドラゴラにいたっては、このような成人した女性ではなく子どもにそっくりで、声も人を気絶させるほどには大きくない。まあこれは百竜の森だけにいる個体だけなのだが……一部の好事家は『マンドラタン』という名前で呼び、とても高価で取引してるほどかわいらしいと。話がそれたな」


セキを一つして話し続ける。


「しかし、ツリードラゴン……背中に木をはやしたトカゲなのだがその木にとりついた時、話が変わってくる。ツリードラゴンはマンドラゴラのおかげで普段より簡単に沢山の獲物を捕らえられるため、図体が大きくなりやすい。一方、マンドラゴラは普通に木に生えるより栄養を多くもらえる上、ドラゴンに水や光がある所に連れて行ってもらえるため、大きく発育する。声の大きさや体のいろんなところがな」


教鞭の先は確かに、大きく発育した箇所を指している。


「つまり、これは、どちらかが一方的に利用する寄生ではなく、互いに利益を与え、協力し繁栄する共生なのだ。今日の授業のテーマは『協力とは人間だけの武器ではない』ということだ。弱肉強食で自分達の種だけ生き残ればいいという単純な生物だけではない。環境が変われば生物も変わる。そのことを良く覚えておくように」


そういって、カメルは教鞭をしまう。


「さて、最後にマンドラゴンの対処法だな。これは簡単。マンドラゴンの攻撃範囲外からの攻撃が一番だ。つまり遠距離攻撃だな。アヴィオンやニナの出番というわけだ。また、音に対する対策をしておくのも有効だ。不意打ちさえされなければ、ただの大きなトカゲなのだから」


終業の鐘が鳴る。
博士はピンと背すじを伸ばしたまま、教室の扉を開ける。ありがとうございました!と声が響く。
若い生徒たちに教えることのうち、どれが役立ち、どれが無駄になるかは分からない。
だが、いくつかはきっと、彼らの命を永らえさせてくれるだろう。そう信じて博士は今日も教鞭をとる。





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